漫画・小説・演劇・ドラマ、ジャンルも媒体も男も女も関係なく、腐った可愛そうな頭の人間が雑多に書き散らすネタ帳です。 ていうかあれだ。サイトに載せる前の繋ぎみたいな。
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ハケ品@④
「昨日も言ったように、今日は一日、東京へ出ます。帰社しないので何か報告等あれば明日、緊急なら逐次携帯にお願いします……」
朝礼を終えた東海林は本社のある東京への出張のため、名古屋営業所を出立した。
向かうは、S&F本社。東海林武の、家にも等しい……否、等しかった、場所。
東京に赴くのは、名古屋に飛ばされてからは初めてだ。一応、里中には東京へ向かう旨を連絡したので、久々に彼に会えることを思えば嬉しくないわけではないが、やはり気分は上がらない。
片や、大きなヤマを当てた本社勤務、片や名古屋の子会社へ事実上左遷された運輸営業所所長。
里中に手柄を返したことを後悔しているわけではないのだが、やはり知った顔ばかりの本社に向かうのは、気が重いものがある。
一人乗り込んだ新幹線。買った缶コーヒーを小さな折りたたみ式の上に置いて窓にもたれ、腕を組んだ東海林は溜め息を吐いた。
(……今日は、とっくりは事務か……)
「……ん、そういやあ……」
東海林は、閉じていた目を開けると、仕事用の鞄とはまた別の、小さな手提げを卓上に置いた。
「とっくりのやつ、何寄越したんだよ……」
朝、東海林が営業所に向かうと、既に一人、誰より早くデスクについていた春子がいた。
その横顔に少し頬を緩ませた東海林は、大前さん、おはよう、と声を掛けた。すると、いつもであれば『おはようございます』と言葉だけ返るのに、春子は徐に立ち上がるとツカツカと東海林の元へ歩み寄った。
書類に印鑑か何か欲しいのか、と首を傾げる東海林に定例通り『おはようございます』を返した後、春子はずいっとこの手提げを突き出したのだ。
東海林は突然のそれに、面食らう。
『おおっ……!?』
『ついでです』
『……は?』
『昨日土屋さんに夕飯のおかずを頂いたのでそのお礼に作ったものの余った材料を使って作ったので、あなたのはついでです』
『つ、土屋におかず? ていうかついでっつ……』
問いただそうとした東海林だったが、結局他の職員が出社してきたため、そのまま春子と話す暇もなく出て来てしまった。
渡された手提げ、普通に考えれればお弁当。
「いや……だって、とっくりだぞ? まさかなー……」
東海林は、中に入っている包みを丁寧に広げた。と、そこには、一枚の白い紙が入っている。折り畳んであるそれを広げれば、綺麗な筆跡で二言の簡素なメモめいたそれ。
無理をしないこと。
行ってらっしゃい。
「……マジか……?」
思わず、頬を抓った。
たった二行。そのたった二行が、とんでもなく嬉しい。
なんだよ、どうしたとっくり大前春子。
あ……でもこれ、土屋のついでなんだよな。
少し気落ちしたが、それでも嬉しいものは嬉しい。
その場で開けようとして、まだ食うには早い、と、思いとどまる。メモだけ大切に手帳に挟み、中身は包みに戻して手提げに入れた。
少し憂鬱だった気分は、いとも簡単に浮上した。我ながら現金なものである。
「……あーなんだよ……あー……会いたくなったじゃねえか、ちくしょう……」
端から見れば確実に不審者。独り言を呟きながらにやける男を乗せて、新幹線は速度を上げた。
朝礼を終えた東海林は本社のある東京への出張のため、名古屋営業所を出立した。
向かうは、S&F本社。東海林武の、家にも等しい……否、等しかった、場所。
東京に赴くのは、名古屋に飛ばされてからは初めてだ。一応、里中には東京へ向かう旨を連絡したので、久々に彼に会えることを思えば嬉しくないわけではないが、やはり気分は上がらない。
片や、大きなヤマを当てた本社勤務、片や名古屋の子会社へ事実上左遷された運輸営業所所長。
里中に手柄を返したことを後悔しているわけではないのだが、やはり知った顔ばかりの本社に向かうのは、気が重いものがある。
一人乗り込んだ新幹線。買った缶コーヒーを小さな折りたたみ式の上に置いて窓にもたれ、腕を組んだ東海林は溜め息を吐いた。
(……今日は、とっくりは事務か……)
「……ん、そういやあ……」
東海林は、閉じていた目を開けると、仕事用の鞄とはまた別の、小さな手提げを卓上に置いた。
「とっくりのやつ、何寄越したんだよ……」
朝、東海林が営業所に向かうと、既に一人、誰より早くデスクについていた春子がいた。
その横顔に少し頬を緩ませた東海林は、大前さん、おはよう、と声を掛けた。すると、いつもであれば『おはようございます』と言葉だけ返るのに、春子は徐に立ち上がるとツカツカと東海林の元へ歩み寄った。
書類に印鑑か何か欲しいのか、と首を傾げる東海林に定例通り『おはようございます』を返した後、春子はずいっとこの手提げを突き出したのだ。
東海林は突然のそれに、面食らう。
『おおっ……!?』
『ついでです』
『……は?』
『昨日土屋さんに夕飯のおかずを頂いたのでそのお礼に作ったものの余った材料を使って作ったので、あなたのはついでです』
『つ、土屋におかず? ていうかついでっつ……』
問いただそうとした東海林だったが、結局他の職員が出社してきたため、そのまま春子と話す暇もなく出て来てしまった。
渡された手提げ、普通に考えれればお弁当。
「いや……だって、とっくりだぞ? まさかなー……」
東海林は、中に入っている包みを丁寧に広げた。と、そこには、一枚の白い紙が入っている。折り畳んであるそれを広げれば、綺麗な筆跡で二言の簡素なメモめいたそれ。
無理をしないこと。
行ってらっしゃい。
「……マジか……?」
思わず、頬を抓った。
たった二行。そのたった二行が、とんでもなく嬉しい。
なんだよ、どうしたとっくり大前春子。
あ……でもこれ、土屋のついでなんだよな。
少し気落ちしたが、それでも嬉しいものは嬉しい。
その場で開けようとして、まだ食うには早い、と、思いとどまる。メモだけ大切に手帳に挟み、中身は包みに戻して手提げに入れた。
少し憂鬱だった気分は、いとも簡単に浮上した。我ながら現金なものである。
「……あーなんだよ……あー……会いたくなったじゃねえか、ちくしょう……」
端から見れば確実に不審者。独り言を呟きながらにやける男を乗せて、新幹線は速度を上げた。
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