漫画・小説・演劇・ドラマ、ジャンルも媒体も男も女も関係なく、腐った可愛そうな頭の人間が雑多に書き散らすネタ帳です。 ていうかあれだ。サイトに載せる前の繋ぎみたいな。
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ハガレン@Anything new?
「これ、返納します」
鋼の錬金術師、という肩書きを銀時計とともに机上に置くと、大総統が、ふうんと笑った。私が与えた称号じゃないのに私に返されるなんて、不思議だねえ。人を喰ったような笑みでそう、言われた。
執務室のドアを二度ノックして、エドワードだけど、と言えば、中から、入りたまえ、が聞こえた。今まで何度となく訪れて、恐らくこれからも訪れる場所。
声の主に従い、ドアを開く。真正面に、机上に書類を山ほど積んだロイ・マスタングの姿があって、エドワードは部屋の中に身を滑らせた。
「よぉ、大佐。相変わらず大佐やってんだ?」
コートの中に手を突っ込んだまま、元、直属の上司に近づく。書類を片付けて居るのかと思い手元を覗きこめば、紙に落書きをしていた元上司に、エドワードが呆れたような顔をする。ロイがふうと一つ息を吐き出した。
「久しぶりに来たと思ったら、嫌味を言いに来たのかね、鋼の」
「おっと、残念。その肩書きは今さっき大総統にお返ししてきたとこだ」
手をびしりと出して答えたエドワードに、ロイが一瞬瞠目する。間抜け面め。
「ほお、目出度く無職か。自ら進んで婚約者のヒモになるとはな」
「けっ、誰がヒモだ、誰が! 銀時計返しに行ったら、君は軍から追いやるには惜しい逸材だよねえ、これからは錬金術、錬丹術の研究員として、このまま軍に従属してね、だとよ。食えねえおっさんだぜ」
言ったエドワードはけれど、ありがたい、と思う。今後も錬金術を、そして錬丹術を研究し続けるのだと決めた身だ。研究費はないよりあった方がいいし、後ろ盾もまた然りだ。
「つーことで、大佐は本日をもって俺の直属の上司じゃなくなったので、その報告に来たわけ」
「寂しくなるな」
「うへぇ、気色悪いこと言ってんじゃねえよ」
「何が気色悪いものか、私はただ、君をちょくちょく揶えなくなるなんて寂しくなるな、と言ったんだ」
「ムカつくおっさんだな、相変わらず」
「おっさん? 聞き捨てならんな」
ヒートアップする二人の言い合いを中断するノックの音が部屋に響き、エドワードとロイはドアを見やる。開いたそこから入って来たのは、リザ・ホークアイだった。
「失礼します……あら、エドワード君、お久しぶり」
手に紙の束を抱えたリザが、エドワードを見止めて、口角を上げる。エドワードが、絶対に逆らわないでおこう、と思う人は何人かいるが、リザもその一人だ。
「おぁ、中尉! 久しぶり! あれ、大佐のお目付役に戻ったの?」
前大総統の勅命により、大総統付きになっていたはずだったが、と問えば、リザが少し、笑った。
「ええ、他にこの人の手綱をとれる人が居れば良かったんだけど、なかなかね」
「へえー……良かったじゃねーか、大佐」
「ああ、軍部が潤いを取り戻したようだ」
返した言葉ともども、リザが鋭くロイを射抜いた。絶対零度。差し詰め、中央司令部の氷の女王といったところだ。その絶対零度が向けられるのは、主にロイだが。
「大佐、軽口を叩いている隙があるなら、昨日の分の書類を捌いてください」
「……ああ」
「いやー本当だ、大佐、汗で額が潤ってるぜ」
ニヤニヤ笑うエドワードにピシリと青筋を立てて言い返そうとするロイを制するように、リザが前に一歩出る。
「それから大佐」
「なんだね、中尉」
ドサリ、置かれたのは抱えていた書類の束だ。ロイのこめかみがひくついた。
「こちらが本日分になります。明日は視察の予定が入っていますから、本日分は本日中に終わらせてくださいね」
「……昨日の分はいつまでに終わらせればいいんだ?」
「昨日分は昨日中に終わらせるものです」
至極真っ当な意見に、けれどロイは尚も食い下がる。
「昨日は大総統と今後の軍部と国政のあり方についての話し合いをだな」
嘘ではない。ただ、チェス板を挟みながら勝負にかまけての話し合いではあったが。(大体、現大総統はそれこそ、執務にあまり意欲的に取り組んでいないではないか、これでは部下の指揮が下がるのも致し方ないことであろう、というのがロイの意見なのだが)
「何か?」
結局、この件に関してロイには一切の言い訳は許されていないのだ。唇を噛んだロイを見て、エドワードが笑った。
「はは、変わんねえなー……。ああ、そうだ中尉、ウィンリィが中尉に会いたがってるんだけど……」
「ウィンリィちゃんが? 嬉しいわ。今度、もし週末でも空いていたら、お買い物しましょう、と伝えておいてくれる?」
「サンキュ」
ウィンリィ・ロックベル。エドワードの幼なじみであり、腕のいい機械鎧の技師でもある。そんな彼女にエドワードがプロポーズをした、という噂は軍部の東から中央から果ては北にまで驚異の速さで広がり、ここ最近はエドワードが軍部に姿を見せる度しっかり話の種にされていたものだ。が、何度も同じ話をされると本人も揶揄に対する耐性がつくのか、近頃では『そーですよ幼なじみにプロポーズしましたよ俺の可愛い婚約者は機械鎧の整備の腕も超一流ならシチューだってリゼンブール一美味いんですよ羨ましいかこんにゃろう!』とノロケ混じりに牽制している。尚、何故特筆すべきがシチューなのかというと、エドワードの好物だからだそうで、これはもうマジモンのノロケである。
「ロックベル嬢は元気かね?」
噂の立った最初の頃はそれはもう先頭切ってエドワードを揶っていたロイも、標的が手応えのない反応を返すようになると大人しくなった。
エドワードは、ロイの質問に苦笑する。
「元気だよ。元気すぎて、式まで持つのかってくらい。それからアルも、メイも。アイツ等の話じゃあリンも元気に王様してるってさ」
「それは、息災で何よりだな」
「本当はもう少し西の方回ろうかと思ってたんだけどさ、流石に、な」
婚約者であるウィンリィには構わないから行ってこい、と言われたのだけれど、と呟くエドワードは、なんだかなあ、と頭を掻いた。
「式も近いんだ、大人しくしていたまえ」
「いや、式もそうだけど、身重のアイツ、一人にできねえからさ」
時が止まった音がした。ロイ・マスタングの、だ。
「……身重?」
「三ヶ月だって」
「本当に? おめでとう、エドワード君」
「へへ、ありがとう、中尉。まあ、安定期入るまで心休まらねーけど。ウィンリィ、案外無理するから」
着いていてやりたいのだ、と微笑む顔は既に父親のそれのようで、酷く狼狽したロイは「ノロケかね」とそれだけ言うのがやっとだ。……だって、あの、エドワード・エルリックが、子供だなんて……! 狼狽えるなという方が無理だ。
「なんとでも。……と、じゃあ俺、そろそろ行くよ」
ロイの心の漣などまるで無視して、エドワードはそういって一度敬礼すると、そんじゃ、また、と踵を返し、とっとと出て行った。よっぽど婚約者のことが気になるのだろう。……ノロケかッ!
稍あって、放心していたロイがぐらりと上体を動かした。
「中尉」
「何ですか」
言外に仕事しろ、と射竦められて、それでもロイはめげない。
「どうだ、我々も、結婚を考えるか」
「寝言を謂っているということは、寝ている、ということですね」
たたき起こして差し上げましょうか? リザが懐に手を突っ込んだのを見て、ロイは小さく諸手を挙げて深いため息をついた。
「~~ッ……はぁ……」
まさか、エドワードに結婚も子供も先を越されるとは思って居なかった。あの、落ち着きない、根無し草が……!
……ほんの少し前は、身体を取り戻すために躍起になっていた根無し草が、生まれた場所で花を咲かせる。親友を思い出すそれはとてもうらやましくて、それはとても、とても。
「……目出度いな」
「はい……」
生まれる子供が鋼ののようにやんちゃでなければ良いが、と、苦いものを吐き出すようにそう言って、ああ、そうだ、今度は思い出したように唇を突き出した。
「もう、鋼の錬金術師ではないんだったな……」
ロイは、机上の昨日分の書類に手を着けた。と、本日分のそれの一番上に、気になる書類。というか、手紙だろうか?
二つ名「鋼」のエドワード・エルリックはこれまで通り、君の下で宜しくね。
「……」
ロイは、にんまりと口角を引き上げた。
「どうやら鋼のと私の赤い糸はそう簡単に切れそうもないな」
どこかでくしゃみの音が聞こえた気がした。
鋼の錬金術師、という肩書きを銀時計とともに机上に置くと、大総統が、ふうんと笑った。私が与えた称号じゃないのに私に返されるなんて、不思議だねえ。人を喰ったような笑みでそう、言われた。
執務室のドアを二度ノックして、エドワードだけど、と言えば、中から、入りたまえ、が聞こえた。今まで何度となく訪れて、恐らくこれからも訪れる場所。
声の主に従い、ドアを開く。真正面に、机上に書類を山ほど積んだロイ・マスタングの姿があって、エドワードは部屋の中に身を滑らせた。
「よぉ、大佐。相変わらず大佐やってんだ?」
コートの中に手を突っ込んだまま、元、直属の上司に近づく。書類を片付けて居るのかと思い手元を覗きこめば、紙に落書きをしていた元上司に、エドワードが呆れたような顔をする。ロイがふうと一つ息を吐き出した。
「久しぶりに来たと思ったら、嫌味を言いに来たのかね、鋼の」
「おっと、残念。その肩書きは今さっき大総統にお返ししてきたとこだ」
手をびしりと出して答えたエドワードに、ロイが一瞬瞠目する。間抜け面め。
「ほお、目出度く無職か。自ら進んで婚約者のヒモになるとはな」
「けっ、誰がヒモだ、誰が! 銀時計返しに行ったら、君は軍から追いやるには惜しい逸材だよねえ、これからは錬金術、錬丹術の研究員として、このまま軍に従属してね、だとよ。食えねえおっさんだぜ」
言ったエドワードはけれど、ありがたい、と思う。今後も錬金術を、そして錬丹術を研究し続けるのだと決めた身だ。研究費はないよりあった方がいいし、後ろ盾もまた然りだ。
「つーことで、大佐は本日をもって俺の直属の上司じゃなくなったので、その報告に来たわけ」
「寂しくなるな」
「うへぇ、気色悪いこと言ってんじゃねえよ」
「何が気色悪いものか、私はただ、君をちょくちょく揶えなくなるなんて寂しくなるな、と言ったんだ」
「ムカつくおっさんだな、相変わらず」
「おっさん? 聞き捨てならんな」
ヒートアップする二人の言い合いを中断するノックの音が部屋に響き、エドワードとロイはドアを見やる。開いたそこから入って来たのは、リザ・ホークアイだった。
「失礼します……あら、エドワード君、お久しぶり」
手に紙の束を抱えたリザが、エドワードを見止めて、口角を上げる。エドワードが、絶対に逆らわないでおこう、と思う人は何人かいるが、リザもその一人だ。
「おぁ、中尉! 久しぶり! あれ、大佐のお目付役に戻ったの?」
前大総統の勅命により、大総統付きになっていたはずだったが、と問えば、リザが少し、笑った。
「ええ、他にこの人の手綱をとれる人が居れば良かったんだけど、なかなかね」
「へえー……良かったじゃねーか、大佐」
「ああ、軍部が潤いを取り戻したようだ」
返した言葉ともども、リザが鋭くロイを射抜いた。絶対零度。差し詰め、中央司令部の氷の女王といったところだ。その絶対零度が向けられるのは、主にロイだが。
「大佐、軽口を叩いている隙があるなら、昨日の分の書類を捌いてください」
「……ああ」
「いやー本当だ、大佐、汗で額が潤ってるぜ」
ニヤニヤ笑うエドワードにピシリと青筋を立てて言い返そうとするロイを制するように、リザが前に一歩出る。
「それから大佐」
「なんだね、中尉」
ドサリ、置かれたのは抱えていた書類の束だ。ロイのこめかみがひくついた。
「こちらが本日分になります。明日は視察の予定が入っていますから、本日分は本日中に終わらせてくださいね」
「……昨日の分はいつまでに終わらせればいいんだ?」
「昨日分は昨日中に終わらせるものです」
至極真っ当な意見に、けれどロイは尚も食い下がる。
「昨日は大総統と今後の軍部と国政のあり方についての話し合いをだな」
嘘ではない。ただ、チェス板を挟みながら勝負にかまけての話し合いではあったが。(大体、現大総統はそれこそ、執務にあまり意欲的に取り組んでいないではないか、これでは部下の指揮が下がるのも致し方ないことであろう、というのがロイの意見なのだが)
「何か?」
結局、この件に関してロイには一切の言い訳は許されていないのだ。唇を噛んだロイを見て、エドワードが笑った。
「はは、変わんねえなー……。ああ、そうだ中尉、ウィンリィが中尉に会いたがってるんだけど……」
「ウィンリィちゃんが? 嬉しいわ。今度、もし週末でも空いていたら、お買い物しましょう、と伝えておいてくれる?」
「サンキュ」
ウィンリィ・ロックベル。エドワードの幼なじみであり、腕のいい機械鎧の技師でもある。そんな彼女にエドワードがプロポーズをした、という噂は軍部の東から中央から果ては北にまで驚異の速さで広がり、ここ最近はエドワードが軍部に姿を見せる度しっかり話の種にされていたものだ。が、何度も同じ話をされると本人も揶揄に対する耐性がつくのか、近頃では『そーですよ幼なじみにプロポーズしましたよ俺の可愛い婚約者は機械鎧の整備の腕も超一流ならシチューだってリゼンブール一美味いんですよ羨ましいかこんにゃろう!』とノロケ混じりに牽制している。尚、何故特筆すべきがシチューなのかというと、エドワードの好物だからだそうで、これはもうマジモンのノロケである。
「ロックベル嬢は元気かね?」
噂の立った最初の頃はそれはもう先頭切ってエドワードを揶っていたロイも、標的が手応えのない反応を返すようになると大人しくなった。
エドワードは、ロイの質問に苦笑する。
「元気だよ。元気すぎて、式まで持つのかってくらい。それからアルも、メイも。アイツ等の話じゃあリンも元気に王様してるってさ」
「それは、息災で何よりだな」
「本当はもう少し西の方回ろうかと思ってたんだけどさ、流石に、な」
婚約者であるウィンリィには構わないから行ってこい、と言われたのだけれど、と呟くエドワードは、なんだかなあ、と頭を掻いた。
「式も近いんだ、大人しくしていたまえ」
「いや、式もそうだけど、身重のアイツ、一人にできねえからさ」
時が止まった音がした。ロイ・マスタングの、だ。
「……身重?」
「三ヶ月だって」
「本当に? おめでとう、エドワード君」
「へへ、ありがとう、中尉。まあ、安定期入るまで心休まらねーけど。ウィンリィ、案外無理するから」
着いていてやりたいのだ、と微笑む顔は既に父親のそれのようで、酷く狼狽したロイは「ノロケかね」とそれだけ言うのがやっとだ。……だって、あの、エドワード・エルリックが、子供だなんて……! 狼狽えるなという方が無理だ。
「なんとでも。……と、じゃあ俺、そろそろ行くよ」
ロイの心の漣などまるで無視して、エドワードはそういって一度敬礼すると、そんじゃ、また、と踵を返し、とっとと出て行った。よっぽど婚約者のことが気になるのだろう。……ノロケかッ!
稍あって、放心していたロイがぐらりと上体を動かした。
「中尉」
「何ですか」
言外に仕事しろ、と射竦められて、それでもロイはめげない。
「どうだ、我々も、結婚を考えるか」
「寝言を謂っているということは、寝ている、ということですね」
たたき起こして差し上げましょうか? リザが懐に手を突っ込んだのを見て、ロイは小さく諸手を挙げて深いため息をついた。
「~~ッ……はぁ……」
まさか、エドワードに結婚も子供も先を越されるとは思って居なかった。あの、落ち着きない、根無し草が……!
……ほんの少し前は、身体を取り戻すために躍起になっていた根無し草が、生まれた場所で花を咲かせる。親友を思い出すそれはとてもうらやましくて、それはとても、とても。
「……目出度いな」
「はい……」
生まれる子供が鋼ののようにやんちゃでなければ良いが、と、苦いものを吐き出すようにそう言って、ああ、そうだ、今度は思い出したように唇を突き出した。
「もう、鋼の錬金術師ではないんだったな……」
ロイは、机上の昨日分の書類に手を着けた。と、本日分のそれの一番上に、気になる書類。というか、手紙だろうか?
二つ名「鋼」のエドワード・エルリックはこれまで通り、君の下で宜しくね。
「……」
ロイは、にんまりと口角を引き上げた。
「どうやら鋼のと私の赤い糸はそう簡単に切れそうもないな」
どこかでくしゃみの音が聞こえた気がした。
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