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漫画・小説・演劇・ドラマ、ジャンルも媒体も男も女も関係なく、腐った可愛そうな頭の人間が雑多に書き散らすネタ帳です。 ていうかあれだ。サイトに載せる前の繋ぎみたいな。

   
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黄豚@⑥
 電話を切ったみぞれは、じっとその携帯に目を落とし、にんまり口角を上げた。

「……」

 姉は昔よく家を飛び出していた。母との折り合いが悪かったわけでも、妹である自分との間に溝があったわけでもない。
 ただそんな放浪癖のあるような姉だったから、年に何度かしか帰って来ないこともあった。それこそ今回のように何も言わずに出て行ってそれっきりなんてことも、だ。
 けれど、今回だけは絶対に違う。確信を持ってそう思っていたみぞれは、昨日とうとう連絡もなく帰らなかった姉に、また飛び出して帰って来ないのではないか、という心配はしていなかった。
 一日帰って来なくとも騒ぎ立てるほど子供ではないし、今回は、むしろ。

(このまんま、ゴールインしてくれたらいいなあ)

 そう思うのは、姉が具体的に誰と居るのか、はわからずとも雰囲気から某かを感じとった妹としてである。
 姉ももういい歳だ。刑務所暮らしが長かった故に婚期を逃したなんて、言わせたくない。
 勿論、姉が幸せなら別に無理に結婚しろとは言わないけれど、けれど、だって、あの姉が満更でもないのなら、応援したいと思うから。

「みぞれ、芯子の奴電話出たかい?」
「うん、夕方か夜には帰るって」

 昼食のおかずを食卓に並べながら、母にそう伝える。店をあけるのは昼を過ぎてから。それまでは暇があるのだ。

「朝には帰ってくるかと思ったら、まったく」

 悪態をつく母も、本気で怒っているわけではない。それがわかるみぞれはくすくすと笑うと箸をとった。

「いただきます」
「はいよ」

 煮浸しに手を伸ばしたみぞれ、そして今まさに座ろうとした啄子が、玄関の戸をたたく音で動きを止める。

「誰だろ?」
「……回覧板とか?」

 啄子がトタトタと玄関へ向かい、その戸を開ける。と、そこにいた人物に啄子が間の抜けた声を出した。

「あれ……」
「あ、こんにちは」

 その聞き慣れた声に、みぞれもひょいと顔を出す。

「ん? ……優くん!?」

 そこに立っていたのは芯子を慕う年下男であり、そしてみぞれと啄子がまさに今の今まで芯子と伴に居ると信じて疑わなかった、工藤優その人だった。

「あの……芯子は……」
「あ、芯子さんまだお休みですか……?」

 優の目線が玄関のすぐ近くにある階段の上に向けられる。

「え、じゃなくて……優くん、芯子姉ェと一緒じゃなかったの!?」
「え? はい、芯子さんとは昨日庁舎で別れたきりで……もしかして、昨日から帰ってないんですか……?」
「ていうか、てっきり優くんと一緒に居るもんだとばっかり……」

 みぞれの言葉に優が唇を噛んだ。

「優くん……? あ、芯子姉ェに電話してみたら、夕方か夜には帰るって言ってたんだけど……」
「早めに帰るように連絡するかい?」
「あ、いえ」
「……じゃ、じゃあ、ご飯だけでも食べて帰ったら……?」
「え、と、お昼食べてきたので、大丈夫です、すみません……あ、私用の前にちょっと寄っただけなので、これで失礼します!」

 お邪魔しました。
 ぺこりと頭を下げて、堤家を跡にした優。残されたみぞれと啄子には、疑問が残された。

(いま、誰とどこに居るんだろう……?)

※※※

 芯子のことだから、仕事納めの翌日ならば昼頃まで寝ているのではないか、そう考えて悠々と足を運んだ自分が滑稽に思える。だって、彼女は、帰宅してすら居なかった。
 そして恐らく、自分はその居場所に心当たりがあるのだ。

 優は芯子の実家から少し離れた場所で、電話をかけた。
 表示された名前は『角松一郎補佐』。何度も呼び出して居るが、出る気配はない。
 勿論、芯子と一郎が伴に居ない可能性だってある。というか、伴にいるというその可能性を想像するのは自分と金田くらいかもしれない。それでも、確信する。

「……負ける気はないんだけど、なあ」

 閉じた携帯に、ため息をついた。
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