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漫画・小説・演劇・ドラマ、ジャンルも媒体も男も女も関係なく、腐った可愛そうな頭の人間が雑多に書き散らすネタ帳です。 ていうかあれだ。サイトに載せる前の繋ぎみたいな。

   
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黄豚@⑤
 芯子は、一郎の前の椅子行儀悪く腰掛けると、箸を取っておかずをぱくぱく摘んでいく。
 一郎も取り落としたジャガイモを皿から拾い上げて、口に運んだ。ふと、窓の外に目を向ける。すると、干した覚えのない、一郎のYシャツに下着、芯子の脱いだであろうそれらがベランダで棚引くのが見えた。

「洗濯、してくれたのか」
「んー……? ま、そのまんまにしとけねーだ、ろ? アタシのだけ洗っても良かったんだけどな」

 ついでだよ、ついで!
 大したことじゃない、と明後日を向く芯子に、笑った。

「何笑ってんの……。つか、アンタんとこ食い物なさすぎ」
「今日買いに行こうとこ思ってたんだよ……。まあ、どうせ一人だからな、出来合いの物で済ませてもいいし」

 それとも作ってくれんのか? と半ば本気で訊くと、調子に乗んな、と一蹴されて少し凹む。それなら煮物と味噌汁はとっておこうかと思ったが、煮物は既にほぼ胃袋の中であった。
 取りあえず膨れた腹を抱えて人心地つく。

「もう、帰るのか?」
「ん? んー……あー……そういやあ、連絡してないな」
「連絡……って、家にか? 電話とか……メールは!?」
「いーれーてーない」

 だって、泊まるつもりなかったし? そう言われてしまうと、返す言葉もない。

「けどなあ……」
「あーのさ、アタシだって良い大人なんだっつの。十代のガキの家出じゃねーんだから、一日やそこら帰らなかったからってどってことないんだ、よ! ……大体、昔は家帰ってるほーが珍しかったんだから」

 芯子はそう言いながら立ち上がり、食器を片付けていく。一郎もそれに倣うと、台所に並んだ。

「メールでも電話でも着てるかも知れないだろ、片付けくらい俺がやるから、連絡してこいって」
「……はいはい、ったく……わかりましたよ」

 面倒くさい、と言いながら、芯子は一郎の部屋に落としたままのコートから携帯電話を取りに行く。

「着信はー……っと……」

 開いて、息を呑んだ。

「着てるし」

 そこには、みぞれからのメール。件名には『お母さんが』とあって、芯子は少し心臓が早くなるのを感じた。
 何かあった?
 本文を開く。

『帰ってくるときに、お雑煮に入れるお肉買って来てだって~』
「……」

 えらいキラキラのデコレーションメールで、そんなお願い。
 ベッドに携帯を投げ、息を吐くと自分もそこに身体を預けた。ぼす、と空気の抜ける音。

「どうだった? ……って何うずくまってんだよ」
「……べっつに……」

 洗い物を終えて部屋を覗いた一郎が、ベッドに突っ伏す芯子を見て近寄る。

「着てたんだろ? 何だって?」
「……正月の食い物買ってこいって、さ」
「それでなんでお前そんなんなってんだよ」
「……」

(だってまるで、家に帰るのが当たり前みたいじゃん)

 これまでどれだけ掛けたメイワクか判らない。母にしろ、妹にしろ、このお人好しの男にしろ、見放されて当然の自分であるにも関わらず幾度も居場所を与える。与えてくれる。
 それを、今、ふと感じて胸が熱くなった? そんなの、アタシらしくない。

「……んなカッコで帰ったら何つってからかわれるかわっかんねえなあ、と思って、溜め息吐いてたんだ、よ……」

 背中越しに、咄嗟に思いついた理由で悪態をつく。と、一郎が笑ったのが空気で解った。

「なに、笑ってんの」
「いや、なんか」

 一郎は、ベッドを挟んで反対側から上半身だけそれに乗り上げると芯子に手を伸ばした。
 いやいやと首を振る芯子に構わず、こっち向けって、とその頭を捕まえる。
 そらした視線すら愛しいといったら、バッカじゃねえーの! とでも言われるだろうか。

「じゃあ、乾くまで居たらいい」
「……さっき干したばっかなんだよ? どんだけ時間かかんだっつの」

 ……そ、れ、と、も、何か暇つぶすよーな楽しいコト、する?
 芯子が、挑戦的な目で一郎を見、頭から頬に移動したその手に触れた。
 ごく、と一郎の喉が鳴って、芯子が、よし、このまま主導権を握ってしまえ、と思ったのも束の間、一郎が頬に添えた手でもって、そこを軽く挟んで引っ張った。

「っひゃ、にゃにすんだ!」

 芯子は驚いて、目をつり上げてその手を振り払う。
 一郎は、再び笑顔に戻り、芯子の頬をゆっくりと撫でた。

「お前、都合悪くなるとすぐそうやって人を誘うみたいにして話逸らすけどなあ……」

 よっこいしょ、とベッドに乗り、仰け反る芯子を逃がさまいと捕まえる。

「なになに、なんだよ、もう……っ」
「……なんでもねーや……なあ、キスしてもいいか?」
「はぁ?」
「したくなった、お前の顔見てたら……駄目か?」
「……」

 逡巡した芯子の瞼がゆっくり降りる。一郎が、顔を近付けた。
 三センチ、二センチ、一センチ、触れる瞬間に、ベッドの上の携帯電話が震えて、一郎が飛び上がる。

「うぉッ!? あ、な、なんだケータイか……」
「……ビビりすぎだろ。……それ、取って」

 一郎が携帯を渡すと、芯子が開いて耳に当てる。
 もしもし、ああみぞれ。ん? 見ーた。買ってかえりゃいーんだろ? え、なに? 帰り? ……んー。

 ちらっとベッドを見れば、心臓あたりを押さえて溜め息を吐き出している一郎の姿。それを見た芯子は、電話の向こうにいる妹に向かって言った。

「ゆーがたか、夜になりそーだな。帰るときまた連絡する。んーじゃーね、はい」

 電話を切ると一郎が驚いたように此方を見ていた。芯子は、携帯を横に放ると、ベッドに上がる。洗っていないシーツはなんだかゴワついてあまり気持ちのよいものではないけれど、夕方洗って干して帰ればいい、と思った。
 一郎の上にのり、抱きつくような体勢になると、そこから伸び上がって一郎の唇に自分のそれを落とす。目を閉じて少し口を開けば、触れるだけのキスは簡単に深いものに変わった。

「ん……」

 一郎の腕が芯子を抱く。
 もらう居場所のなんと心地いいことだろうか。

「あー……そんな風に乗られるとな、キスだけじゃ収まらないんですけども……」

 一郎が少し首を持ち上げれば、広めに開いた男物の服からバッチリ見える下着をつけないままの胸の輪郭。

「収めなきゃーいーんでないの?」

 ふふん、と微笑んだ芯子は、再度一郎に口付けた。
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