漫画・小説・演劇・ドラマ、ジャンルも媒体も男も女も関係なく、腐った可愛そうな頭の人間が雑多に書き散らすネタ帳です。 ていうかあれだ。サイトに載せる前の繋ぎみたいな。
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黄豚@褥の攻防
一郎が襖を開けると、一組の布団、枕が仲良く二つ並べられたそれに堤芯子が胡座をかいていた。
結局温泉には入らずに家の風呂を使ったため、まだしっとり濡れたままの髪を乱暴に拭き続けていた芯子が、襖の紙擦れの音にこちらを見やる。
「おそかったな?」
アンタの母ちゃんに、これ二人で使って下さいね、って言われたんだけど?
指されたのは芯子が下に敷いている一組の布団で、これを二人で使え、は一郎も言われた。枕はあるのに布団はないってのも面白い、と呟く芯子に、一郎が深いため息を吐く。
正直襖をあけた時に彼女が元婚約者ママ粛々と座って居たらどうしよう、とドキドキしていた。この一ヶ月で堤芯子というそれこそありのままの人間を知ったというのに。期待すればしただけ裏切られるというのに。例えば過去だとか、最近でいうならあの時とか、あの時とかッ! 否、期待なんか、していないけれど!
一郎は思い出した諸々にムカムカとしながらも、それをぐっと耐え込んで、布団に座る芯子に手を差し出した。芯子は訝しげにその手を見る。
「何」
「枕一つ寄越せ」
向こうでアイツ等と一緒に寝るから、と面倒くさそうに言う一郎に、芯子は僅かに口角を上げる。
「あっれーぇ?」
「なんだ、早く枕寄越せ」
言われた言葉に従うように、芯子は枕を一つ取り上げると、けれどそれを手渡すでも投げるでもなく、前に抱えた。そして、可愛らしく小首を傾げると詰まらなそうに唇を尖らせる。
こんな女、か、わ、い、く、な、ん、か、と思うのに、一郎の単純な心臓は早鐘を打つのだからなんだかもう、自分で自分が情けない。
ああ、だって、可愛い。四十も間近の癖に、可愛いのだ。
「……なぁに、角松さん、せっかくお母様がお布団ご用意して下さったのに、あっちでお休みになるんですかぁ? ヨーコ寂しい……」
「バッ……!? 馬鹿言ってないで早く寄越せッ」
この、男タラシが! とうとう叫ぶようにそう言うと、柔和に細められていた芯子の眦がキリリと上がった。強気の瞳がガッツリ一郎を睨む。ちょっとビビる。
「……寄越せ寄越せ言ってないで枕の一つくらい自分で持って、け、っつーの!」
ひっつかまれた枕は、一郎の顔目掛けて綺麗に飛び、その顔面を強か叩いた。
「ブッ……おいこら投げるな!」
「あーもーっさいな、とっとと出、て……ると寒いから、早くお布団入りましょ、ね? シ……一朗さん」
「あ? お前何言って、」
突然声色と喋り方が変わった。角松は、コイツ頭大丈夫か、と訝しむが、芯子が、自分の後ろの誰かに小さく会釈をしたのを見て、動きを止める。誰に? そんなこと、決まっている。
「一朗、明日も早いんだから、早く寝なよ?」
母であった。
途端に、角松の挙動は不振になる。当然だ。普段のように罵倒し合うことは、即ち自分と婚約者の仲を隠し通せなくなること。避けねばならない第一優先事項なのだから。
「か、あちゃ、お、おお、寝るわ! 寝よ寝よ、な、洋子!」
母親の前で『自分の女』とそそくさ一つの布団に入るのもどうかと思うが仕方ない。
「本当に仲いいわねえ」
「はぁい(もっとそっち行け!)」
「お、お休みぃ~(これ以上行けるか馬鹿! ギリギリだわ! お前こそもっとそっち寄れ!)」
小声の言い合いを『もっとこっちに来て』『これ以上行けるか馬鹿! 母親の前だぞ!』とでも取ったのか? それじゃ、私もアテられちゃう前に休みましょ。と、何を想像したのかわからない母は、お休みなさい、と襖を閉めた。
遠ざかる足音、布団の中の二人は、仲良く溜め息を吐き出す。
「で?」
「あ?」
「一緒に寝るわけ?」
「寝るか馬鹿!」
*
*
*
「あっちで寝るんじゃないんですか?」
「出来るわけねえだろ」
(うろ覚え)
結局温泉には入らずに家の風呂を使ったため、まだしっとり濡れたままの髪を乱暴に拭き続けていた芯子が、襖の紙擦れの音にこちらを見やる。
「おそかったな?」
アンタの母ちゃんに、これ二人で使って下さいね、って言われたんだけど?
指されたのは芯子が下に敷いている一組の布団で、これを二人で使え、は一郎も言われた。枕はあるのに布団はないってのも面白い、と呟く芯子に、一郎が深いため息を吐く。
正直襖をあけた時に彼女が元婚約者ママ粛々と座って居たらどうしよう、とドキドキしていた。この一ヶ月で堤芯子というそれこそありのままの人間を知ったというのに。期待すればしただけ裏切られるというのに。例えば過去だとか、最近でいうならあの時とか、あの時とかッ! 否、期待なんか、していないけれど!
一郎は思い出した諸々にムカムカとしながらも、それをぐっと耐え込んで、布団に座る芯子に手を差し出した。芯子は訝しげにその手を見る。
「何」
「枕一つ寄越せ」
向こうでアイツ等と一緒に寝るから、と面倒くさそうに言う一郎に、芯子は僅かに口角を上げる。
「あっれーぇ?」
「なんだ、早く枕寄越せ」
言われた言葉に従うように、芯子は枕を一つ取り上げると、けれどそれを手渡すでも投げるでもなく、前に抱えた。そして、可愛らしく小首を傾げると詰まらなそうに唇を尖らせる。
こんな女、か、わ、い、く、な、ん、か、と思うのに、一郎の単純な心臓は早鐘を打つのだからなんだかもう、自分で自分が情けない。
ああ、だって、可愛い。四十も間近の癖に、可愛いのだ。
「……なぁに、角松さん、せっかくお母様がお布団ご用意して下さったのに、あっちでお休みになるんですかぁ? ヨーコ寂しい……」
「バッ……!? 馬鹿言ってないで早く寄越せッ」
この、男タラシが! とうとう叫ぶようにそう言うと、柔和に細められていた芯子の眦がキリリと上がった。強気の瞳がガッツリ一郎を睨む。ちょっとビビる。
「……寄越せ寄越せ言ってないで枕の一つくらい自分で持って、け、っつーの!」
ひっつかまれた枕は、一郎の顔目掛けて綺麗に飛び、その顔面を強か叩いた。
「ブッ……おいこら投げるな!」
「あーもーっさいな、とっとと出、て……ると寒いから、早くお布団入りましょ、ね? シ……一朗さん」
「あ? お前何言って、」
突然声色と喋り方が変わった。角松は、コイツ頭大丈夫か、と訝しむが、芯子が、自分の後ろの誰かに小さく会釈をしたのを見て、動きを止める。誰に? そんなこと、決まっている。
「一朗、明日も早いんだから、早く寝なよ?」
母であった。
途端に、角松の挙動は不振になる。当然だ。普段のように罵倒し合うことは、即ち自分と婚約者の仲を隠し通せなくなること。避けねばならない第一優先事項なのだから。
「か、あちゃ、お、おお、寝るわ! 寝よ寝よ、な、洋子!」
母親の前で『自分の女』とそそくさ一つの布団に入るのもどうかと思うが仕方ない。
「本当に仲いいわねえ」
「はぁい(もっとそっち行け!)」
「お、お休みぃ~(これ以上行けるか馬鹿! ギリギリだわ! お前こそもっとそっち寄れ!)」
小声の言い合いを『もっとこっちに来て』『これ以上行けるか馬鹿! 母親の前だぞ!』とでも取ったのか? それじゃ、私もアテられちゃう前に休みましょ。と、何を想像したのかわからない母は、お休みなさい、と襖を閉めた。
遠ざかる足音、布団の中の二人は、仲良く溜め息を吐き出す。
「で?」
「あ?」
「一緒に寝るわけ?」
「寝るか馬鹿!」
*
*
*
「あっちで寝るんじゃないんですか?」
「出来るわけねえだろ」
(うろ覚え)
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